新NISAを利用して相続税対策はできる?効果的な手法も伝授!
2024年1月から開始された新NISA制度。旧NISAよりも投資限度額が多くなる、非課税保有期間が恒久化されるなど、将来の資産形成に大いに貢献すると考えられますが、新NISAを利用した相続対策が可能か否かを解説いたします!
1.新NISAの概要
はじめに、そもそもNISAとは何なのか、旧NISAと新NISAの違いなど、新NISAの基本的な事項を解説いたします。
1-1 NISAの歴史
はじめのNISA(ニーサ)は2014年(平成25年税制改正)に1月に開始された、少額から投資を行う方向けの「少額投資非課税制度」になります。
その後は、2016年4月に17歳以下の未成年のための少額投資非課税制度であるジュニアNISA、2018年1月に長期的な保有を目的としたつみたてNISAが始まりました。そして、令和5年度税制改正大綱にて閣議決定された新NISAが2024年1月からスタートしました。
1-2 今までのNISAと新NISAの違い
それでは、今までのNISAと今年の1月からスタートした新NISAはどこがどのように異なるのでしょうか?以下に双方の違いをまとめた表を作成しましたので、確認していきましょう!
上表のとおり、旧NISAと新NISAには様々な違いがありますが、大きな違いとしては非課税保有限度額が1,800万円に大幅に増加した、非課税保有期間が無期限となった等があげられます。
少しわかりづらいため、解説が必要と思われるものが「売却時の枠」になります。
例えばですが、2024年1月から4月にかけて、つみたて投資枠を毎月30万円購入したとします。毎月30万円×4か月=120万円ということは、つみたて投資枠の年間投資額である120万円に達することになります。
そして、2024年9月に購入した120万円分をすべて売却した場合は、その120万円の枠が復活することになりますが、復活するのは翌年(2025年)になりますので注意が必要です。
あくまでも、1年間に投資をすることが可能な額が、つみたて投資枠であれば120万円になります。
2.新NISAのメリット・デメリット
それでは、新NISAにはどのようなメリットやデメリットが存在するのかを解説いたします!
2-1 メリット
① 運用益が非課税
とにかく一番のメリットがこちらになります。通常の株式投資であれば、株式を保有していることによる配当金や、売却した際の儲けに対して約20%の税金がかかることになりますが、新NISAではそれらに対して課税されることはありません!
② 非課税保有期間が無期限
旧NISAでは、上記のメリットである非課税になる保有期間が決まっていました(5年、20年)が、新NISAではその保有期間が無期限になりました。そのため、保有期間を気にすることなく保有しておくことが可能です。
③ 制度の併用が可能
旧NISAでは、一般NISAとつみたてNISAの2つの制度がありましたが、どちらか1つの制度しか利用することができませんでした。しかし、新NISAでは、成長投資枠とつみたて投資枠の2つの制度を両方利用することが可能になります。
④ 年間投資額が3倍
旧NISAの一般NISAの年間投資額は120万円ですが、新NISAの2つの制度を最大限利用した場合の年間投資額は360万円と、旧NISAと比較した場合3倍に増加しています。そのため、以前よりも多額に投資することが可能になりました。
⑤ 保有限度額が2倍以上
旧NISAのつみたてNISAの非課税保有限度額は800万円でしたが、新NISAの非課税保有限度額は2つの制度を合計して1,800万円と大きく増加することになりました。そのため、将来の資産形成のために大いに役立つことでしょう!
⑥ 売却枠の復活
旧NISAでは売却後の非課税枠は復活しませんでしたが、新NISAでは「1-2 今までのNISAと新NISAの違い」に詳細に記載したとおり、売却後の非課税枠が翌年に復活します。そのため、投資内容の見直しも比較的簡単に実施することが可能になりました。
⑦ 少額での投資が可能
一般的な株式投資の場合は、購入するための最低単位が100株などに設定されていることもありますので、1株500円であれば最低50,000円が必要になります。しかしながら、NISAの場合は「少額」投資非課税制度の文字どおり、最低100円からの投資が可能になっていることから、投資に対するハードルが非常に低くなっています。「貯蓄から投資へ」という時代の流れに沿うように、非常に投資がし易い制度であることがわかります。
⑧ 長期保有による福利効果
投資信託などを購入する際に右肩上がりのチャートを見ることがあるかと思いますが、日本に限らず全世界において成長を続けていることから、長期保有した場合は含み益になることがほとんどです。そして、含み益分を元本にプラスして更なる利益得ることを「福利」と言いますが、なるべく早い時期から投資をすることによって、最終的な利益は想像以上に大きくなります。
2-2 デメリット
① 短期売買だと損する可能性
長期保有の観点からはプラスになる可能性が高いNISAですが、あくまでも「長期的」であることに注意が必要です。投資である以上は日々の値動きがありますので、NISAを始めたタイミングによっては、投資直後に多くの含み損をかかえることになる可能性もあります。そのため、短期的な売買を行うと損失を計上することもあり得ますので、基本的には長期保有することをおすすめいたします。
② NISA口座では損益通算不可
そもそも損益通算とは、利益(プラス)と損失(マイナス)を相殺することを言い、所得が小さくなることから結果として所得税も少なくなります。仮に普通の株式投資と新NISAを行っている場合、株式投資(特定口座)で得られた利益と、NISA口座の損失を損益通算することができません。そのため、特定口座の利益に対して税金が課せられることになります。
③ NISA口座では繰越控除不可
上記の損益通算と似ている制度になりますが、今年生じた損失を翌年度以降の利益と相殺することを「繰越控除」といいます。特定口座での株式投資等を行っている場合は、損失が生じた年に確定申告をすることにより繰越控除をすることが可能になりますが、NISA口座で損失が生じた場合は確定申告をしたとしても損失を繰り越すことはできませんので注意が必要です。
④ 年間投資額
年間投資額についてはメリットでも記載しましたが、その裏返しでデメリットになる可能性もあります。NISAは基本的に長期保有することでその利益を最大化し、将来の資産形成につなげるものになりますが、投資開始時期をあまりにも急ぐばかりに年間投資額MAXの360万円投資しようと考えている方もいるかもしれません。360万円を余裕資金から捻出するのであれば良いのですが、貯金を切り崩す場合は、いざという時のためのキャッシュをある程度残しておくことをおすすめいたします。
⑤ 手数料や信託報酬
新NISAをきっかけに投資を始める方もいるかと思いますが、どの株式や投資信託を選べば良いのかわからないという声も多くあります。どの銘柄が良いという具体的な話はここでは省略させていただきますが、必ず見ていただきたいのが売買手数料と信託報酬です。売買手数料はネット証券であれば無料が多いですが、銀行で新NISAを行う場合は手数料がかかることもありますので注意が必要です。また、信託報酬も投資信託によって%が全く異なりますので、選ぶ際は必ず確認しましょう!
3. 相続税・贈与税との関連性
それでは、新NISAと相続税・贈与税の関連性を解説する前に、そもそも相続税とは何かなど基本的な事項を解説いたします。
3-1 そもそも相続税とは
相続税とは、亡くなった方(被相続人)が保有する、預金や土地建物などの財産を受け取った方(相続人)に課せられる税金になります。
相続税は非課税枠が大きいことから、すべての相続に相続税が課せられるわけではなく、相続全体の10%以下に留まりますので、むしろ相続税が生じること自体がレアケースになります。
そして、相続税率は遺産総額が高くなれば税率も上がる「超過累進税率」が採用されています。なお、具体的な税率は下記の国税庁HPをご参照ください。
(参考)国税庁_No.4155 相続税の税率
3-2 贈与税
上記のとおり、相続税は超過累進課税であることから、相続税を減らすためにはなるべく遺産総額を減らす必要があります。そのためには、亡くなる前から相続人に対して資産を移転しておくことで、相続時における被相続人の遺産総額を減らすことが可能になります。
しかしながら、相続人に予め資産を移転することによって相続税を減らすことは可能になりますが、資産を移転する際に今度は贈与税が課されることになります。その贈与税ですが、「相続時精算課税」と「暦年課税」の2つがあり、それぞれのメリット・デメリットがありますので、次項で解説いたします。
3-3 相続時精算課税と暦年課税の違い
それでは、具体的に2つの贈与税にはどんな違いがあるのかを以下の表で確認しましょう。
上表のとおり、2つの制度の違いはあるものの、まず認識していただきたいのは、これが贈与税であることです。「相続時」精算課税という名称であることから、一見すると相続税なのではないかと勘違いされる方もいるかと思いますが、あくまでも贈与税になります。
贈与税という認識で見ていただきまして、その中での大きな違いは特別控除と税率になります。相続時精算課税は特別控除が2,500万円あるものの、税率は一律で20%になる一方で、暦年課税の場合は特別控除がなく税率は10%から最大55%の超過累進税率になります。
どちらの制度を選択すべきかはケースバイケースになりますが、一般的には短期間で一度に贈与したい場合は相続時精算課税を、長期間で少しずつ贈与したい場合は暦年課税を選択するのが良いでしょう。
このような場合はどうなるの?など具体的なケースを知りたい場合は、こちらからお問合せいただければ回答いたします。
3-4 贈与税が相続税に与える影響
非常に大事なことですのでもう一度記載しますが、相続時精算課税と暦年課税は贈与税になりますので、贈与した際に課される税金になります。
その後、贈与者(あげる人)が亡くなった場合は相続財産に対して相続税が課されますが、その相続財産に贈与した財産も合計(具体的な金額は3-3参照)することになる場合がありますので、ほとんどの場合、下記の図のように贈与税と相続税はセットで考えることになります。
4. 新NISAを利用した相続税対策
それでは、具体的な新NISAを利用した相続税対策を記載しますので、ご自身に合う方法を実施していきましょう!
4-1 前提
前提として「3.相続税・贈与税との関連性」に記載したとおり、相続税は超過累進課税になりますので、なるべく相続時の遺産総額を減らすことが重要になります。
そのため、亡くなる前に相続人に対して多くの資産を移転しますが、あまりにも多くの資産を移転するとその際の贈与税が多く生じることになりますので、結果的に多くの税金を納めることになるかもしれません。
したがって、贈与するタイミングや金額が重要になります!
4-2 受贈者(もらう人)の年齢
結論から記載しますと、18歳以上のなるべく低い年齢の人に贈与するのが一番のメリットになります。
理由としましては、新NISAを利用できる年齢及び相続時精算課税の対象年齢が共に18歳以上であることが一つです。
加えて、「2.新NISAのメリット ⑧長期保有の福利効果」で記載したとおり、新NISAの基本的な戦略としてはとにかく長期保有になりますので、新NISAを利用できる最少年齢で始めることが利益を最大化する秘訣です。
4-3 贈与額が毎年110万円以下の場合
この場合は、相続時精算課税制度を利用するのがベストの選択になります。理由としましては、令和5年度税制改正において、2024年1月1日から当該制度を利用する場合に基礎控除額110万円を控除することが可能になりました。そのため、相続時精算課税制度を利用した場合は、贈与税もゼロであるとともに、相続税に加算されることもありません。
一方で、暦年課税制度を利用した場合は、毎年の基礎控除110万円は相続時精算課税制度と同様であることから贈与税は課税されませんが、相続開始前7年以内の贈与額は相続財産に加算されることから、相続税が課せられることになります。
したがって、毎年の贈与額が110万円以内であれば相続時精算課税制度を利用する方が良いということになります。
4-4 パターン別シミュレーション
それでは、生前贈与をする場合に暦年課税制度または相続時精算課税制度のどちらを利用した方が最終的な税負担が低くなるのかを、パターン別にシミュレーションしましたのでご覧ください。
上記の暦年課税制度の場合は、毎年の贈与税が比較的多額に生じますが、相続財産に加算される金額は相続前7年分になりますので相続税の課税価額は少なくなります。
一方で相続時精算課税制度の場合は、特別控除2,500万円に達するまでの贈与税は生じませんが、その後は20%の相続税が生じます。また、基礎控除後の贈与額すべてが相続財産に加算されますので、暦年課税制度と比較して課税価額が多くなります。
ケース①の結論として、相続時精算課税制度の特別控除2,500万円の影響が大きいことから、相続時精算課税制度を利用した方が得になります。
それでは、財産金額・年間贈与額・贈与年数を複数パターン組み合わせた他のパターンも確認していきましょう。なお、計算過程は省略し、結果のみ記載いたします。
ケース①を含め合計13パターンをシミュレーション実施してみましたが、状況に応じてどちらの制度を利用した方が得なのかがわかると思います。戦略を誤った場合、最終的に数百万円損してしまう可能性もありますので、事前のシミュレーションを丁寧に実施することが重要になります。
このような場合はどうなるの?など具体的なケースを知りたい場合は、こちらからお問合せいただければ回答いたします。
5.注意点
相続税対策のための生前贈与ですが、制度を利用するにあたりいくつかの注意点がありますので、こちらで確認していきましょう。
5-1 定期贈与
上記「3-3 相続時精算課税と暦年課税の違い」に記載したとおり、基礎控除が110万円あることから、毎年110万円を生前贈与することにより贈与税ゼロのまま資産移転をすることが可能です。
しかしながら、「定期贈与」に該当するとみなされた場合、毎年ではなく一度に全額贈与したと判断され、その合計額に対して贈与税が課せられる可能性があります。
「定期贈与」とは、予め贈与する総額が決まっており、毎年一定額贈与することを言います(例えば、毎年100万円を15年間にわたって贈与するなど)。
そして、定期贈与とみなされないためには以下のような方法が考えられます。
定期贈与ではないとみなされない方法
✔ 毎年贈与する際に贈与契約書を作成する
✔ 毎年贈与するタイミングをずらす
✔ 毎年贈与する金額を変える
✔ 贈与した証拠を残すために銀行振込を利用する
5-2 結果論
「4-4 パターン別シミュレーション」にて、金額や期間など様々な場合を想定したシミュレーションを行い、暦年課税制度または相続時精算課税制度のどちらを利用した方が得なのかを記載しました。
こちらのシミュレーションの前提として、相続開始までの期間が決まっていますが、現実では何年後に相続が開始されるのかわかる術がありません。
何年後に相続が開始される見込みであることから、こちらの制度を利用しよう!と実行したものの、想定よりも早く(遅く)相続が開始されたため、あちらの制度を利用した方が良かったという場合もあります。
そのため、具体的にどちらの制度を利用した方が得だったかが判明するのは、相続開始後になりますので、結局その時になってみないとわからないということになります。シミュレーション段階で最善策を見積もったとしても、結果的に外れてしまうこともありますのでご注意ください。
6.まとめ
このように、非常にお得な新NISAになりますので、
①なるべく早い時期に新NISAをスタートし
②なるべく早い段階で枠を使い切り
③長期保有するということが最も効果的な方法になります。
そのためには、生前贈与を利用した資産移転を行うことによる、しっかりとした相続税対策を実施することが重要です。
その時の状況に応じた最善策を講じることにより、相続税対策を確実に実施することが可能になるとともに、新NISAのメリットを最大限に受けることが可能になりますので、是非この制度を利用しましょう!
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