マイホーム買い替え時は3,000万円の特別控除と住宅ローン控除のどっちがお得?
マイホームの買い替え時に所得税を節税できる制度として「3,000万円の特別控除」や「住宅ローン控除」がありますが、これらは併用できません。
それでは、2つの控除のうち、どちらを選んだ方がお得なのでしょうか。この記事ではそれぞれの控除が適用される条件や、どちらかがお得になる条件かについて解説します。
目次
1.どちらが「お得」かは条件により異なる
前提として「3,000万円の特別控除」と「住宅ローン控除」は併用できません。
理由は、住宅ローン控除の適用要件のひとつに「居住した年を含む過去3年及び居住した翌年から3年間に3,000万円の特別控除を適用していない」というものがあるためです。
(参考) 国税庁No.1212 一般住宅の新築等をした場合(住宅借入金等特別控除)
それぞれの控除の内容は、以下のとおりです。
控除名称 | 控除の内容 |
3,000万円の特別控除 | 以前住んでいた家を売却したときに生じた譲渡益に対する控除。譲渡所得に対する控除であることから、所得控除になります。 |
住宅ローン控除 | 新しい家を購入してローンを組んだときに利用できる所得税からの控除。所得税に対する控除であることから、税額控除になります。 |
3,000万円の特別控除には納税額を減らせるメリット、住宅ローン控除は税金の還付金を増やせるメリットがあります。
どちらを利用した方がメリットがあるかは購入・売却する不動産の条件によって異なるためシミュレーションが必要ですが、大まかに言えば結論は以下のようになります。
結論
古い家を高く売却できれば「3,000万円の特別控除」が得で、そうでないなら「住宅ローン控除」がお得。
ここからはそれぞれの控除についてと、上記の結論に至る理由を解説します。
2.3,000万円の特別控除とは
3,000万円の特別控除の正式名称は、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」になります。
この特例がどのようなものか、適用される要件について解説します。
2-1 譲渡所得から3,000万円の控除が可能
3,000万円の特別控除とは、譲渡所得から最高で3,000万円の控除が受けられる制度です。
譲渡所得とは、大まかにいえば不動産の売却で得た利益のことです。
譲渡所得は、次の計算式で求められます。
譲渡所得 = 不動産の売却価格 -(その不動産の購入価格 + 購入や売却にかかった経費) |
譲渡所得が生じた場合、その金額に応じて譲渡所得税がかかります。譲渡所得税とは、譲渡所得に対してかかる所得税と住民税を併せたものです。さらに、2037年12月31日までは復興特別所得税もかかります。
譲渡所得が3,000万円以下だった場合、3,000万円の特別控除を適用すれば譲渡所得が0円とみなされ納税が免除されます。
なお、この特例は前年や前々年に他の買い替えについての特例等を受けている場合は適用されません。
(参考) 国税庁No.3302 マイホームを売ったときの特例
2-2 長期譲渡所得と短期譲渡所得
譲渡所得は売却した不動産の所有期間に応じて「短期譲渡所得」と「長期譲渡所得」に分けられ、所有期間が5年を超える「長期譲渡所得」の場合は譲渡所得税率が低く設定されています。
なお、所有期間の判定は譲渡した年の1月1日をもって行われますのでご注意ください。
短期・長期による所得税率の違い
短期譲渡所得 | 長期譲渡所得 | |
所有期間 | 5年以内 | 5年超 |
所得税率 | 30% | 15% |
復興特別所得税率 | 0.63% | 0.315% |
住民税率 | 9% | 5% |
合計税率 | 39.63% | 20.315% |
なお10年以上所有した不動産を売却すると、さらに税率が下がる特例が設けられています。詳しくは、以下の国税庁HPをご覧ください。
参考: 国税庁「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」
2-3 控除適用の要件
3,000万円の特別控除が適用されるにはいくつかの要件があり、それらをすべて満たす必要があります。代表的な条件として、以下があります。
● 現在住んでいるマイホームである
● 売る相手が親子や夫婦など特別な関係ではない
● 売却までの3年間に同じ特例やほかの特例を受けていない など
この他にも要件があるため、下記国税庁HPや不動産会社を確認する、またはからお問合せください。 こちら
参考: 国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」
3.住宅ローン控除とは
住宅ローン控除の正式名称は「住宅借入金等特別控除」であり、一定の要件のもと、住宅ローンを利用して家を購入したときに利用できる制度です。以下で示す内容は、ブログ掲載時点のものです。
住宅ローン控除に関する法律は頻繁に改正されるため、最新の情報を確認しましょう。
3-1 最長13年間の控除が可能
住宅ローン控除は、年末時点の住宅ローン残高の0.7%が所得税や住民税から毎年控除される制度です。新築住宅の場合は13年間、中古住宅の場合は10年間にわたって適用されます。所得税から控除しきれなかった場合は、住民税から控除可能です。
また控除できる金額の上限は、購入した家屋の種類によって異なります。
3-2 住宅ローン控除の適用要件
住宅ローン控除が適用される要件は、次の通りです。
● 住宅ローンの返済期間が10年以上
● 住居の引き渡しから6か月以内に住み始めている
● 購入した人が主に住んでいる住居である
● 特別控除を受ける年の12月31日まで住んでいる住居である
● 床面積が50㎡以上ある
● 合計所得額が2,000万円以下
● 一定の耐震基準を満たしている など
住宅の耐震性や性能評価についての内容など他にも詳しい条件があるため、不動産会社や税理士に確認しましょう。
3-3 住宅ローン控除の借入限度額や控除期間
住宅ローン控除が適用される借入限度額や控除期間は、住宅の省エネ性能や新築・中古の別、入居時期などで異なります。
各条件での借入限度額や控除期間について、以下の表にまとめます。
新築住宅に2024年~2025年に入居する場合
住宅の性能 | 借入限度額 | 控除期間 |
長期優良・低炭素 | 4,500万円 | 13年 |
ZEH水準省エネ | 3,500万円 | 13年 |
省エネ基準適合 | 3,000万円 | 13年 |
その他 | 適用なし※ | - |
※2023年末までに新築の建築確認を受けていれば、借入限度額2,000万円、控除期間10年で適用が受けられる
子育て世帯・若者夫婦世帯が新築住宅に2024年に入居する場合
住宅の性能 | 借入限度額 | 控除期間 |
長期優良・低炭素 | 5,000万円 | 13年 |
ZEH水準省エネ | 4,000万円 | 13年 |
省エネ基準適合 | 3,000万円 | 13年 |
その他 | 適用なし | - |
「子育て世帯・若者夫婦世帯」とは、2024年12月31日時点で次のいずれかの条件に当てはまる世帯のことです。
● 年齢19歳未満の子がいること
● 夫婦いずれかの年齢が40歳未満であること
● 年齢19歳未満の子がいること
● 夫婦いずれかの年齢が40歳未満であること
中古住宅に2024年~2025年に入居する場合
住宅の性能 | 借入限度額 | 控除期間 |
長期優良住宅・低炭素 ZEH水準省エネ 省エネ基準適合 | 3,000万円 | 10年 |
その他 | 2,000万円 | 10年 |
なお、住宅ローンの控除額は、法令改正のたびに縮小される傾向がある点を覚えておきましょう。
4.3,000万円の特別控除と住宅ローン控除のシミュレーション
それでは、3,000万円の特別控除と住宅ローン控除のどちらが得か、シミュレーションしてみましょう。
購入した新居の住宅ローン控除額を算出し、それに対して3,000万円の特別控除を算出するケースを2つ想定して住宅ローン控除額と比較します。
銀行サイトで公開されている「住宅ローンシミュレーション」を使用して、以下の条件を想定します。
購入した新築住宅についての住宅ローン控除
住宅ローン借入額 | 2,000万円 |
金利 | 1.5%(固定金利) |
借入期間 | 30年(元利均等返済) |
年間返済額 | 82万8,288円 |
次に年間返済額をもとに毎年の残高に対する0.7%の控除額を算出し、合計します。
13年間の住宅ローン控除の総額:153万676円 |
一方、売却した古い住宅の譲渡所得に対する3,000万円の特別控除を計算します。
古い住宅を売却して得られた譲渡所得が3,000万円に満たなかった場合、本来譲渡所得にかかる税額すべてが控除されます。
たとえば6年間長期所有していた住宅に対する3,000万円の特別控除額は、次のとおりです。
譲渡所得2,000万円の場合:2,000万円 × 20.315%=406万3,000円 |
譲渡所得1,000万円の場合:1,000万円 × 20.315%=203万1,500円 |
譲渡所得500万円の場合:500万円 × 20.315%=101万5,750円 |
これらを住宅ローン控除額と比較すると、以下の結果となります。
● 譲渡所得が2,000万円、1,000万円の場合:3,000万円の特別控除がお得
● 譲渡所得が500万円の場合:住宅ローン控除がお得
つまり前の住宅を売却して大きな利益が出た場合は3,000万円の特別控除、そうでない場合は住宅ローン控除がお得になる可能性が高い傾向になるのです。
5.マイホーム売却で損失が出た場合
ここまではマイホーム売却で利益が出た場合、つまり譲渡所得が生じた場合について考えてきましたが、仮に損失(譲渡損失)が出た場合はどのようになるのでしょうか。
譲渡損失が出たときは、「譲渡損失の繰越控除」の特例が利用可能です。この特例を適用すると、損失と給与所得などで得た所得と相殺(損益通算)でき、控除しきれない損失については、翌年以降の所得から控除することが可能です。
また、譲渡損失の繰越控除の特例は、住宅ローン控除と併用することができます。
なお、譲渡損失の繰越控除の適用にも一定の条件を満たす必要があるため、税理士への相談をおすすめします。
6.まとめ
買い替え時の「3,000万円の特別控除」と「住宅ローン控除」の特例はどちらかしか選べません。
大まかに結論を記載すると、古い家を高く売却できれば「3,000万円の特別控除」が得で、そうでないなら「住宅ローン控除」がお得になります。
しかし、どちらにメリットがあるかを判断するには、条件に合わせて詳細にシミュレーションをする必要があります。
また、いずれの控除の適用にも要件が細かく設定されているため、正確に知りたい場合は下記のお問い合わせフォームからご相談ください。