節税対策で法人設立を考えている方必見!法人化するタイミングは結局いつ?
個人事業主の方は法人設立が節税のカギになりますが、設立するにあたり注意すべき点もそれなりに多く存在するのが事実です。法人設立のメリット・デメリットを掘り下げつつ、法人化するべきタイミングを解説します!
1.「会社設立の基本」
はじめに、個人事業主と法人の違いや法人設立のための手続きなど、基本的な事項を学んでいきましょう。
1-1 個人事業主と法人の違い
個人事業主と法人の違いについては、細かい部分を含めると数多くありますが、ここでは重要と考えられるもののみ下記にて記載いたします。
項目 | 個人事業主 | 法人 | 備考 |
---|---|---|---|
設立費用 | 0円 | 10~25万円程度 | 個人事業主は開業届を提出するのみなのでゼロですが、法人の場合は合同会社または株式会社という形態で異なりますが、10~25万円程度かかります。 |
主な税金の種類 | 所得税 | 法人税 | 消費税は要件を満たせば両方該当しますので、大きく異なるのは所得税・法人税の違いのみです。 |
税率 | 超過累進税率 | 概ね一定 | 「1-2 所得税立と法人税率」で詳細に解説いたします。 |
赤字の繰越年数 | 3年(青色申告) | 10年 | 個人事業主と法人で大きく異なり、法人の方が10年間繰越可能なので有利となります。 |
1-2 所得税率と法人税率
上の表のように、所得税率は所得の額に応じて徐々に税率が高くなっていきます(超過累進税率)が、法人税率は中小企業の所得800万円までを除き一定の税率となっています。
このように、法人税率は所得の金額がいくら大きくなろうとも、23.2%よりも高くならないのに対し、所得税率は最大で45%(住民税も合わせると55%)と法人税率の2倍近く高くなることがわかります。そのため、この税率の差を利用して節税するために、個人事業主から法人化するということも考えられます(2-2 節税対策)。
(参考)
国税庁_No.2260 所得税の税率
国税庁_No.5759 法人税の税率
1-3 法人設立の一連の流れ
ここでは、法人設立のための手順について、順を追って簡単にご説明いたします。
①会社概要の決定
まずは、会社を設立にするにあたり、以下の会社の概要を決定する必要があります。このうちのいくつかは「③定款の認証」にて作成する定款にも記載されるとともに、決算月は節税対策を行う上で考慮すべき重要な事項になりますので、慎重に決めることをおすすめいたします。
会社形態(株式会社、合同会社など)
商号(会社名)
事業目的
資本金の額
出資者
株式数
会社設立日
決算月
役員構成
②法人用の実印作成(任意)
以前は会社を設立する際に印鑑の届出が必要でしたが、令和3年2月15日よりオンラインで登記申請を行う場合に限り、印鑑の提出が任意になりました。ただし、契約書や株主総会議事録などの重要書類に押すことが考えられますので、作っておいて損はないかと思います。
③定款の認証
定款(ていかん)とは、会社を設立する際に定める会社の根本的な原則が記載された書類になります。定款に必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」と呼ばれる、商号や事業目的などが合計5つあるとともに、定款に記載せずに他の規定で補うことが可能な「任意的記載事項」があります。
定款の作成が完了したら、公証人(法律の専門家)に認証を行ってもらう必要がありますので、お近くの公証役場 でお手続きください。なお、紙での定款認証を行った場合は収入印紙4万円が必要になりますが、電子定款の場合は収入印紙代が不要になりますのでおすすめです。
また、法務省のHPに定款の記載例やテンプレートがありますので、ご活用ください。
(参考)法務省_定款等記載例
④資本金の払い込み
定款の認証が完了したら、発起人全員が資本金の払い込みを行います。
なお、この時点では法人の銀行口座を開設することはできませんので、発起人の中の任意の一人の個人の預金口座に振り込むことになります。また、1人会社の場合は、自分で自分の預金口座に資本金を払い込む必要がありますのでご注意ください。
⑤登記申請書類の作成・申請
資本金の払い込みまで完了したら、いよいよ会社設立の最終ステップである登記申請になります。
設立登記申請書や定款などの申請書類を準備したうえで、法務局の登記所への持ち込みまたはオンラインにて申請を行います。申請書類に不備がなければ1~2週間程度で登記が完了し、会社の設立日は登記書類を提出した日となります。
※法人設立のお問い合わせはこちらからお願いいたします。
2.「法人設立のメリット」
法人を設立することによるメリットは数多くありますが、下記では特に重要な点に絞って解説いたします。
2-1 社会的信用力
法人設立の1番のメリットと考えられることは、社会的信用力を得られることになります。取引を行う際に、相手が法人なのか個人事業主なのかで信頼度・安全度が全く違います。取引相手が個人事業主の場合は、「この人と取引をして本当に大丈夫…?」と不安になってしまう場合や、そもそも個人事業主とは取引をしないという方針の方(会社)も数多くいると思います。
一方で、取引先が法人の場合は、法人設立のための一定の手続きを経ていることもあり、ビジネスを法人として本気で行うという意思が表れていることから、安心して取引をすることができるでしょう。
2-2 節税対策
人によっては、節税を法人化の1番のメリットと捉えている方もいるかと思うぐらい、こちらも非常に重要になります。「1-2 所得税率と法人税率」で記載したとおり、所得税率と法人税率は所得が大きくなればなるほど、両者の差は大きくなっていくことがわかります。そのため、個人事業主のまま所得税の申告をするよりも、多少ですが法人化のための費用が生じたとしても、法人化して税率の低い法人税で申告する方がトータルとしての費用負担は軽くなる場合があります。
なお、具体的な法人化のタイミングについては、「4.会社設立のタイミングはいつ?」をご参照ください。
2-3 所得分散
上記の節税と一部考え方は同じになりますが、こちらは家族を従業員や役員として雇い、給与や報酬を支払うことによる節税対策になります。支払った会社は、給与分の所得が少なくなることから、その分支払う法人税は少なくなります。また、給与を受け取った家族は、受け取った金額にもよりますが、所得税を支払うことになります。しかし、受け取った金額がそこまで多くなければ所得税率は5%~10%に収まることになり、家族全体として納める税金は少なくなります。
繰り返しになりますが、所得税率は超過累進税率(所得が少なければ税率が低いが、所得が多くなればその分税率も増加)になりますので、法人の所得を税率の低い個人に分散させることにより節税対策となります。なお、給与を受け取る家族は、その額に応じた仕事をしなければならない旨ご注意ください。
2-4 経費に算入できる項目が多い
個人事業主の経費として計上可能なものは、収入を得るために直接要したもののみになります。「直接要した」の定義が少し難しいかもしれませんが、結論のみ申し上げますと、個人事業主よりも法人の方が経費に算入できる幅が広くなっています。
少しだけ例をあげますと、生命保険料の支払いは個人事業主の場合は必要経費ではなく所得控除(最大4万円限度)になる一方で、法人の場合は保険の種類にもよりますが、4万円という限度がなく経費計上が可能になります。
(参考)国税庁_No.2210 やさしい必要経費の知識
2-5 繰越欠損金の期限が長い
法人の場合は、個人事業主に比べて繰越欠損金の期限が非常に長くなっています。そもそも繰越欠損金とは、赤字になった場合、その年の税金はゼロになります(法人の場合は均等割がありますが)。そして、翌年以降黒字になった場合に、以前の赤字と相殺して黒字額を減少させ、結果的に税金を減らすことが可能になることを言います。
この赤字を繰り越せる年数ですが、個人事業主は3年、法人が10年と大きく異なります。個人事業主の3年の場合は、赤字が続いてしまったり、赤字のあとの黒字額が想定よりも小さかったりと、繰越欠損金を使い切れず期限切れになってしまうことがあります。
一方で、法人の場合は10年間繰越が可能になりますので、個人の場合と比較して欠損金を使い切れる可能性が高まります。したがいまして、繰越欠損金の期限については法人化するメリットは非常に大きいと考えられます。
2-6 決算月変更
少し細かい話になってくると思いますが、決算月を変更することが可能なことも法人化のメリットになります。個人事業主は1月1日からその年の12月31日までが例外なく1事業年度になる一方で、法人の決算月は自由に決めることが可能です。
1年間を通じて、ある特定の月のみ売上が大きく伸びるような季節的変動がある業種の方は、その月を事業年度の最初の方にくるように決算月を設定することで年間を通じて節税対策を行うことができます。一方で、仮に事業年度の最終月を一番売上が伸びる月にしてしまうと、節税対策を行うことができる期間が短くなってしまうため注意が必要です。
2-7 設立後2年間は消費税免除
消費税の納税義務は、個人の場合も法人の場合も2年前の課税売上高が1,000万円を超えている場合に生じます。しかし、法人を新規設立した場合は2年前の課税売上はありませんので、一定の場合を除き(No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例)2年間は消費税を納税する必要がありません。
なお、個人事業主でも課税売上高が1,000万円を超える場合は消費税の納税義務が生じますが、その状況で法人成りした場合はどうなるのでしょうか。結論としましては、上記の一定の場合を除き、設立後2年間は消費税の納税義務が生じることはありません。
(参考)国税庁_個人事業者の法人成りの場合の課税売上高の判定
3.「法人設立のデメリット」
上記のとおり、法人を設立することによるメリットは多くある一方で、デメリットもそれなりにあります。ここでは、特に重要であると思われるデメリットを記載いたします。
3-1 設立自体の手続が大変
まず、法人を設立する際の手続きが個人事業主とは比較にならないほど大変です。個人事業主が開業する場合は、最低限税務署に開業届を提出するのみで開業することができます。一方で、法人設立の場合は「1-3 法人設立の一連の流れ」に記載したとおりの手続きを行う必要があり、相当の手間と時間と費用がかかることがわかると思います。
なお、あまりにも簡単に会社を設立することが可能になると、詐欺などに使用される恐れもあることから、ここまで手続きに手間がかかることになっているという一面もあります。
3-2 コスト負担が重い
個人事業主とは違い、法人の場合はかかる費用も全く異なります。具体的に、1番大きな違いは設立費用になります。個人の場合は開業届を提出するだけですのでコストはゼロになりますが、法人設立の場合は「1-1 個人事業主と法人の違い」に記載したとおり、設立する会社形態にもよりますが、10~25万円程度のコストが生じます。
また、税理士に対する費用も負担が重くなってきます。個人事業主の確定申告は、頑張って調べれば自分で行うことも可能であることから、税理士をつけないことも考えられますが、法人の場合の申告は個人事業主と比較できないほど難易度が高くなることから、税理士はほぼ必須となります。
このように、個人事業主では生じなかった新たなコストが生じたり、税理士報酬の単価が値上がりしたりと、キャッシュアウトが増加することになりますので、法人化の際には考慮する必要があります。
3-3 赤字でも均等割の税負担がある
個人事業主の場合は、赤字になった年度については所得税及び住民税がゼロになります。一方で、法人の場合は赤字になったとしても所得に関係なく課税される法人住民税均等割が最低7万円(東京都の場合。資本金等の額が1千万円以下、従業員数が50名以下)ありますので、この分の負担が増えることになります。
(参考)東京都主税局_均等割額の計算例
3-4 登記情報の閲覧
会社を設立するにあたり、「1-3 法人設立の一連の流れ」に記載のとおり、登記をする必要があります。そして、登記された会社については、誰でも登記事項証明書を取得することが可能になります。証明書には会社の設立日、目的、発行可能株式総数、発行済株式数、役員の情報などが記載されており、その中で一番リスクがある情報だと思われるものが代表取締役の住所になります。
住所が公開されることで、なりすましなどの被害が想定されることから以前から論点としてあがっていましたが、今年の商業登記規則改正において希望者は非公開にすることが可能になりそうです。そのため、改正実施後は特段のデメリットではなくなる可能性があります。
つい先日ですが、令和6年10月1日から商業登記規則等の一部が改正され、代表取締役の住所を非公開にすることが可能になる旨公表されました。したがいまして、今年の9月末までは住所が公開されてしまうことによるデメリットになりますが、10月以降は住所の非公開化を選択することが可能になりますので、そこまでのデメリットにはならないと考えられます。
3-5 法人名義の銀行口座、クレカ作成
個人事業主の場合は、プライベートの銀行口座やクレジットカードを使用している方も多いかと思います。その場合、個人事業主として使用しているものとプライベートのものが混在している状況になってしまい、処理する際に手間がかかる・誤ってしまうリスクがあるなどの不都合が生じることが考えられます。
法人設立後は、完全に個人とは切り離して管理することが求められることから、法人用の銀行口座やクレジットカードを作成する必要があります。
なお、銀行口座の作成ですが、昨今は詐欺に使用されるおそれがあるなどの理由から、簡単には作成できないことがあります。その場合は、まずは比較的口座開設がし易い信用金庫にて作成し、実績を積み上げてから銀行での口座開設をすることをおすすめいたします。
3-6 事務手続きが大変(社会保険など)
個人事業主の場合は、従業員を5名以上雇っている場合を除き社会保険への加入義務はありませんが、会社設立後はたとえ1人会社であったとしても、一定額の給与を受け取るのであれば社会保険への加入が必須となります。
また、従業員を1名以上雇用する場合は、労働保険への加入が必須になりますので、こちらも届出が必要になりますのでご注意ください。
3-7 源泉徴収の手間が増える
上記の事務手続きに若干関連しますが、給与を支払う際に源泉徴収をする必要があります。個人事業主の場合は、自分に対する給与という概念がないことから、毎年2~3月に実施する確定申告にて所得税を納付することになります(予定納税をする場合を除く)。
しかしながら、法人成りを行い自分に対する報酬を支払う場合は、会社として源泉徴収をするとともに納付する必要がありますので、その分の事務負担が増えることになります。
3-8 節税効果が薄い可能性
「2-2 節税対策」で記載したとおり、個人事業主は所得が多くなればなるほど税率も増加していきますが、法人税は800万円以上で一定になります。そのため、節税目的で法人設立を行ったにもかかわらず、意外にもコスト負担が重かったなどの理由により、個人事業主時代よりも節税することはできたが想定よりも節税額が低いということも良くあります。
加えて、法人化によって事務作業などの雑務が増加することになり、結果的に法人化しない方が良かったという場合もあり得ますのでご注意ください。
3-9 税務調査の確率が上がる
一般的には、税務調査が入る確率は個人事業主1%、法人3%と言われていますので、確率的には法人は個人事業主の3倍に膨れ上がることになります。
しかし、すべての法人に対して3%の確率で税務調査が入るというわけではなく、業種によって入りやすさが異なってきます。
参考までに令和5年12月に国税庁から公表された調査によると、指摘割合が高い業種トップ5は下記のとおりです。1件当たりの金額も1,000万円程度であり、比較的高額になっています。
4.「会社設立のタイミングはいつ?」
ここまで法人化のメリット・デメリットを記載してきましたが、やはりメリットの方が圧倒的に大きいです。それでは、一体いつのタイミングで法人を設立すれば良いのでしょうか?ここでは、法人化するタイミングについて、重要なものに絞ってご説明いたします。
4-1 所得が一定額を超えた時
節税対策として法人化を考えている場合は、「所得が800万を超えるか否か」を一つの基準として考えていただければと思います。「2-2 節税対策」にて記載したとおり、所得税は所得が高くなればなるほど税率が高くなる超過累進税率が採用され、最大税率は45%にもなります。一方で、法人税は中小企業の場合は所得800万円まで税率15%、それ以降は23.2%で固定になりますので、圧倒的に法人税率の方が低いことがわかります。
そのため、法人化によるコスト増加を加味した場合でも節税可能なラインがおおよそ所得800万程度になりますので、所得が800万に近づいてきたら法人化を検討するのがベストです。
また、良くある間違いとして「売上高が1,000万円を超えたら」法人化、というものがあります。確かに課税売上高が1,000万円を超えると消費税の納税義務者になってしまいますので、法人化することにより2年間の消費税免除を受ける、というのも一つの手かもしれません。
しかしながら、売上1,000万円程度の消費税納付額はそこまで多額ではありませんし、法人化するための費用の方が高くなってしまう可能性があります。
したがって、「売上高」ではなく「所得」が800万に近づいてきた段階で法人化するか否かを検討することが重要になります。
4-2 取引先との関係性を築く必要を感じた時
行っている事業の内容にもよりますが、今後事業拡大をするにあたり取引先を増やしていく、ということも考えられると思います。その際に、そもそも個人事業主とは取引をしない、というスタンスの企業もあるかもしれません。そのため、法人化することによって入り口の選択肢が広がることから、事業拡大につながっていくという良い流れになります。
今度は仕事を依頼する側の立場になって考えてみます。いくつかの個人事業主や会社に対して仕事を依頼している前提で、依頼内容の減少などの理由から、どこかと契約終了することになる場合を想定します。
その場合、会社ではなく個人事業主との契約を終了する可能性があるかもしれません。やはり法人化している場合は、個人としてではなく法人として本気でビジネスをやっているという外観がありますので、個人事業主よりも信頼性があると考えるからです。
したがって、「2-1 社会的信用力」にもつながってきますが、法人であるが故の信用力は圧倒的メリットになりますので、取引先との関係性で不安を覚えているようであれば法人化することを検討するのが良いでしょう。
5.まとめ
以上のとおり、節税目的で法人を設立する場合のベストなタイミングは「所得が」800万円程度を超えた時になりますので、所得が800万に近づいてきた段階で法人化の検討を行いましょう!
なお、現在の事業の状況や法人化したあとの戦略によっては、必ずしも所得800万円で法人化するというパターンに該当するとは限りませんので、状況に応じた判断が必要になります。
弊事務所では法人化のご相談や法人化サポートも実施しておりますので、お困りごと等ございましたら下記のお問い合わせフォームからお気軽にお問合せください!
※なお、こちらの記事は2024年4月18日時点の情報となりますのでご留意ください。